α7RM5 で星空を試写する

- 2022年11月27日 揖斐谷にて -








  ■ SONY α7RM5 を星空でテストする


「星空を試写」というのもはばかられるほどの雲。こちらでは冬の前触れのような天候が続いていて、しばらく晴れは期待できなさそう。
うかうかしていると上弦の月はすぐそこまで迫っていて、満月までも視野に入ってきた。
次にいつ撮れるかわからないので、雲が迫る中で急いで撮ってみた。

今回使用した機材は今月25日に発売となったばかりのα7RM5 。組み合わせるレンズは FE 24mm F1.4 GM、赤道儀はビクセンAP。
FE 20mm F1.8 G と FE 18mm F1.8 GM も用意したが、四方から雲が押し寄せてきたので今回は出番を失った。
この夜の天文薄明は18時11分だが月齢3.2の月没は19時46分。上の画像の撮影時刻は18時24分、天文薄明は終わっている時間帯だが、近所のナトリウム照明が煌々と照らしている。撮影しながら光害が収まるまで待ったが、寄せる雲の速さに勝てなかった。



さてSONYのデジタル一眼カメラ α7RM5 で待望のRaw撮影時に高感度ノイズリダクションのon、offが選択できるようになった。「待望の」と言うには訳がある。私がSONYのα7RM2を使い始めた時、SONYのRawでは高感度NRがon・off選択ができないことに戸惑った。と同時に数多くの星空撮影をしながら、SONYカメラのRawデータのノイズの少なさに驚いた。
ただし等倍に拡大すると星空に輝く微光星が消えていることにも気づいた。つまりSONYのαのRawデータは常時ノイズリダクションが働いていてこれがノイズの少なさをもたらし、それとトレードオフの関係で微光星を消してしまうこともあるのではないか、と推測された。

一般の星景撮影においてはさほど問題にならないことだが、星空を余すところなく写そうとすると問題が生じる。例えば天体写真などだ。
惑星と違って恒星は究極の点光源と言っても過言ではない。
天体望遠鏡で星空を観望すると究極の点光源、すなわち無数の星がひしめいていることに驚く。もしRawで撮影した画像に常時高感度ノイズリダクション(NR)が働いているということになると、本来撮影できているはずの微光星が消されている、という可能性が出てくるからだ。

私は長秒時NRはoffで、32bitあるいは64bitで加算(または加算平均)処理することが多い。もし従来機がRawで撮影する段階で高感度NRが常時働いていたとしたら、そして撮影時にoffとすることができるならRawで消されていた微光星をそのまま写しとることができるのではないか、と期待が高まる。

テストでは原則としてRawは非圧縮14bitとし、クリエイティブルックはNT。コントラスト、彩度等は最低へ下げている。また高感度NRは切・弱・標準と順次変更しながら撮影した。圧縮Raw、非圧縮Rawの差異を検証するため、高感度NRの3段階とのクロスチェックを行った。同様に長秒時NRのon・offもクロスチェックの条件に加えたが、雲が押し寄せてきたため途中で断念せざるを得なかった。DROはoffにしたつもりが、どういうわけかオートになっている。次回に修正したい。

撮影後の検証段階で α7RM5 と SONY Imaging Edge の連携にバクがあることを発見した。撮影は赤道儀を恒星追尾動作された状態で長秒時NRのon・off、高感度NRの 切・弱・標準 を順次切り替えて撮影しているが、高感度NRの3段階の切り替えが Imaging Edge の Viewe にも Edit にも反映さずにすべて「切」になっている。しかし画像を検討すると高感度NRが働いていると思われるので、その情報が Imaging Edge にうまく伝わっていないようだ。この現象については SONY PRO サポート へ報告済み。



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上の画像のデータは次の通り。

ISO800、f2.0、15秒×1枚、非圧縮Raw、クリエイティブルックNT、コントラスト・彩度などは最低、マルミ・StarScape + ケンコー・PRO1D プロソフトン[A](W)使用





以下のテスト画像はフィルターは不使用。





 高感度NR off のデータ (下の画像は、ほぼ中央に位置する ペルセウス座二重星団 hχ 付近の等倍画像)


  上の全体画像のヒストグラムと撮影データ(一部)


 
高感度NR 弱 のデータ (下の画像は、ほぼ中央に位置する ペルセウス座二重星団 hχ 付近の等倍画像)
 
 


 高感度NR 標準 のデータ (下の画像は、ほぼ中央に位置する ペルセウス座二重星団 hχ 付近の等倍画像)
 
 




【若干の覚書】


1、少なくともこの画像では、天体に存在しない色(緑など)は確認できなかった。これはISO感度が800と比較的低かったことによるとも考えられ、次回にはISO感度を3200または6400にまで上げて撮影してみる必要があろう。

2、Rawデータにおける高感度NRのかかり方は、off と 弱・標準 で大きな差異があり、弱 と 標準 の差異はそれほど大きくはない。バグの行方によってはこの観察結果は修正される可能性がある。

3、Rawデータにおいても高感度NRがかかることによって、微光星は消されている。高感度NRをoffで撮影した画像は、微光星も写しとっている。今後α7RM5 を星空撮影で使用する場合は、高感度NRをoffとして連続撮影し、加算平均コンポジットで作品化することが望ましいというのが、現段階における天体撮影での私の考えである。




【まとめと雑感】


以上、細かい話を縷々述べたことをお許しいただきたい。このレポートでは α7RM5 の使用感、例えば縦・横位置(バリアングル・チルト)にとらわれない、天体撮影に自由なスタイルをもたらした4軸マルチアングル液晶モニターの使い勝手についても触れていない。今回はあくまでも、α7RM5のRawデータは微光星を消すことなく撮影することができるか、に絞って検討した。

第1回試写の結論を次のようにまとめておきたい。

従来高感度NRをoffにすることができなかった機種では、知らず知らずのうちにRawデータにリダクションが働いた結果として微光星をノイズと勘違いして(?)消してしまうなどの「悪さ」を働いていた可能性がある。しかしα7RM5 において高感度NRをoffにすることが可能となったため、飛躍的に星空撮影のクオリティー向上が期待できる。この変更については大いに歓迎したい。

ざっとした感想であるが次回以降の撮影ではさらに検証を深めたい。またRawデータに高感度NRが実際働いているにも関わらず Imaging Edge の撮影情報で 切、弱、標準 のすべてが「切」と表示されるバグについては公式アナウンスを待ちたい。

私が主として撮影対象としている1つは星空。星のある風景(星景)を撮る人に比べて星空や天体を撮影する人口は相当少ないと思われる。
Hα領域を写すことのできる天体専用カメラを待望して久しいが、ニーズがどれだけあるかを考えるとなかなか厳しいのだろう、新たに登場する気配は残念ながら今のところはない。
一方、同じカメラであっても撮影者の意図がさまざまであることを思うと、1つのカメラがすべての期待に応えることは至難の業のような気がする。ポートレートからスポーツや鉄道・モータースポーツなどの動体、風景、ヒメボタル、星景、天体、、、、コマーシャルフォトに至るまで、すべてに高い次元で応えられるカメラを作るとしたら、いったいいくらかかり、どれだけのニーズがあるのだろう。
だからこそ、使い手の知識と力量が求められるとも思う。

今回 SONYの α7RM5 は7RM4 と同じ画素数であることから、センザーの上では大きな変更はない、と一般には思われている。しかし星を撮ろうとする者からするととても大きな変更が施されたと感じている。今回のRawデータの扱いの変更について大いに歓迎したいと思う。
この変更についてSONYからどのようなアナウンスが出されるのか、関心を持って待ちたい。


                        (20221128 掲載 篠田通弘)